遺書と恋文

頭痛腹痛毘沙門天

かなしき玩具譚

「真夜中の部屋で嫉妬と怒りと悲しみに胸がどろどろになっていても、あなたの目の前に立つときは砂糖細工でデコレーションされたケーキだと思われていたかった」

 

野口あや子の三作目「かなしき玩具譚」はTwitterのフォロワー(@bdooooo02)にアマゾンのリストから贈っていただいた歌集。

一連の流れがうつくしい。洗練された一冊だ。完成されていた処女作「くびすじの欠片」とは違う魅力を持っている。ちなみに「くびすじの欠片」は現在絶版となっているので、数千円と手頃な価格で購入できるうちに手に入れてほしい。

短銃にしなるスカート のどぼとけあなたでも■してあげる

この歌の主人公を少女ととった。「しなるスカート」と、いつでもだれにでも短銃を向ける若さゆえの攻撃的な想いを感じた。この歌の■に何を入れよう。真っ先に思いつく"それ"だとしたら彼女の唯一の良心。のどぼとけに向けられたが最後、彼女は躊躇なく発砲するだろう。

傷だらけ、という言葉は精神好きの証拠 破った壁は直せよ

「傷だらけ」「破った壁」をリストカットと僕は捉えた。切ることで自分の浅はかな感受性と、何者かになりたいがためこころの脆弱さをアピールしている。そんな人間を歌という武器で蹴散らしている。リストカットをする人間ばかりが傷ついているわけじゃない。そういう歌だと思った。「破った壁は直せよ」。直せよ。治せよ。最後に詠み人のやさしさを感じる。

伏せためにこぼれるなみだかなしさもつねに無色でいられないこと

マスカラ。まつげを長く、もしくは多く、もしくは太くするための化粧品。大声で何も気にせず何も考えず泣きたい。でもマスカラが落ちてしまう。ウォータープルーフだって涙には敵わない。泣きたい、でも、泣いてはいけない。だってまつげを、自分をうつくしいままにさせたいから。

なるしずむというささやきよいつまでもじぶんのためにいきていきたい

だれが何を言おうと構わない。なるしずむでいい。自分を悪く言おうとする人間なんかどうでもいい。足をひっかけようとするものなら跨いでやる。こちらへおいでと手招きする手なんて折ってやる。ただ、じぶんのためのなるしずむと思いつつ、ひらがなであるのは自信がないから。

これは完成された処女作から一作を著したのち、さらに鋭さを増し、野口あや子自身が何かを得たような歌集だと感じた。ガーリッシュな装丁だが、まるで毒入りマカロン。歌を武器にできる人なのだと僕は羨ましく思う。


「この歌集の連作は、砂糖細工でデコレーションされたケーキをひとつずつフォークでずたずたにするように作りました」