遺書と恋文

頭痛腹痛毘沙門天

つむじ風、ここにあります

人は人を愛すことをやめられない。そんな歌集だった。

 

木下龍也著「つむじ風、ここにあります」

フォロワー(@GORO56_56_ p)がリストから贈って下さった歌集だ。いつまでも購入を後回しにしていたが、自分で買わなかったことを悔やむ。早く出会うべき作品群だった。

大丈夫、大丈夫って言いながら吐くようにして死ぬかもなおれ

僕は「無理しないでね」という言葉が大嫌いだ。無理しないとやっていけないから。無理して仕事をして、無理して家事をして。そんな人は大勢いるだろう。僕だって無理して生きている。死んでなお大丈夫、と言葉を吐いて死ぬのかな。「無理しないでね」なんて言わないでよ。大丈夫って言うしかないじゃないか。 

ホタルにはできないことをするために人の形に生まれてきたの

恋だと思った。こんな都々逸がある。

「恋に焦がれて鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす」

その影響だろう。ホタルの形では鳴くことさえできない。そうだ、人間になろう。そして恋をしよう。そのときはこう言おう。好きだ。愛してる。大切にする。会いたい。声が聞きたい。そんな風に、ホタルのときは身を焦がすしかなかった想いを人間の形で言うのだ。

黒インク指の先から染み込んでやがて私の海へと溶ける

万年筆かボールペンかの黒インク。書く、ひたすら書く、まだまだ書く。そうやって海に溶けていく。広がっていく、言葉の海が。僕にもその感覚は分かる。ペン先から自由に広がっていく。自由に自分をさらけだすひとつの方法。たまに枯れることもあるけど、これからもペンを執る。そんな海がどこまでも、どこまでもすべてが続いていくのだ。

あとがきは君に任せる僕の死が物語には不可欠なのだ

死ななければ終わらない物語。僕の死で終わらせる物語。そのあとがきは君が書いて。どうか君に書いてほしい。人を愛してそのまま死にたい。終わらせたいんだ。

ストレートに言葉を刺しながら、たまに自傷するような歌があった。人はいつでも強くあることはできないと思わせられた。その差が大きければ大きいほどこころは揺れて秀でた歌がうまれるとも。