遺書と恋文

頭痛腹痛毘沙門天

くちびるに添えたドレミと 2/2

衝動的だった。この電車はどこ行きだっけ?分からない。終点がどこなのか分からず飛び込んで乗った電車。初めてこっち側に来るなあ。何もないところだなあ。ずうっと畑が広がっている。乗客も少ないし、乗り降りする人も少ない。座席に座ってどこまでもどこまでも広がる畑を見ていた。

「次はーー次はーーお降りの際は〜」

(あ、昔の恋人の家の最寄りだったっけな)

それだけだった。

どのくらい経ったっけ。覚えてないけど、終点まで行って、そのあたりを散歩した。実家の近所に似ていた。雑草のなかに小さな花が咲いている。工事している音が聞こえる。新しくきれいだとは言えない住宅が並んでいる。

あーあ、しまったなあ、人事の人に電話するの忘れてた。迷惑かけちゃったなあ。

1時間ほどうろうろして、また駅に戻った。そして平気な顔をして家へ帰った。

内定はいくつかもらっていた。でもそれらを「多分ここブラックだ…」と思ったのは、下見と称して20時ごろに通るとビル全体が煌々と光っている。土日にも関わらず、電話をかけると繋がる。僕なりの見極め方で、ブラックかどうかを伺った。

第一志望どころか第二志望どころかなんと第三志望さえ、内定がもらえなかった。

反して、秋にさしかかるころにはもうサークルを中心に何かしら関わる友人らは僕らの学部上、ほとんどが公務員になることが決まっていた。地方銀行の行員も多かった。一般企業に内定をもらった人のなかには「あれ?CMで聞いたような…」なんてばかりで。悔しいだの羨ましいだのそんなものはなくて、ただでさえちっぽけな自己肯定感がどんどんしぼんでいった。僕の手に残ったのはブラックの内定ばかり。

ちなみに簡単に採用通知が来るところはまずブラックと思っていい。なぜならブラックだと離職率が高く人員不足で、大勢駒がいるから。ひどいと、人事による面接の次に、もう役員面接。これは先輩から聞いた話だが、一般企業でやたらと初任給が高いところも危険だ。昇給があってないようなものであったり、高くすることで学生を釣ろうとしようとしているつもりであったり。またこれは自分の代のときだけなのだが、解禁が早まったぶん募集を前倒しにする企業も危ないと感じた。それなりの企業なら慌てず例年通りでも学生が来るからだ。

ぼろぼろになって、12月にやっと「ここにしよう。納得できる。頑張れる」と思える企業の内定をもらい、僕らの年は就活が解禁を早める試みによって遅くとも夏には就活が終わっていた周囲の人たちよりだいぶ遅れて就活を終えた。

まあ飛び降りなんかもあったし、ライター→事務職(3日で不当解雇)→ 公務員→フリーターと、環境をころころ変えているが…

これからの就職活動や仕事に不安がある人に覚えていてほしいこと。

一番は、SOSを出せる人を探すこと。

頑張れないときは、今は頑張れるときじゃないと自分で認めること。こころが疲れてしまったら休んでもいいということ。口達者で自分によく似た幽霊がつきまとうこと。その幽霊と話す時間を持つこと。周りは超どうでもいいということ。後のことは後の自分が考えるし、という考え方もあるということ。

全部逃げ出したい、捨ててしまいたいなんていうときはどこ吹く風と行き先のわからない電車で聞いたことのないまちへ行ってみてもいい。 あなたはその足でどこへもだって行けるんだから。

 

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