遺書と恋文

頭痛腹痛毘沙門天

背伸びするより高いビル

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東京に引っ越して2ヶ月目くらいだろうか。眠剤諸々の薬を飲んだのに眠れない。真夜中。

死のうと思った。同居人の不規則な寝息が聞こえる。盗人のようにそっと部屋を出たら、たくさんのアパートが並ぶ。ああ、やっぱり死のうと思った。

ふと気になっていたビルを思い出した。某小中学生向けの塾の階段だ。スーパーやコンビニに行く際に通りがかる。

「ロック、あったっけ?」

不法侵入であるのを自覚しつつ、罪悪感より好奇心のほうがずっと大きかった。

7階。某自死を勧めるような本で、飛び降りは最低8階と聞いた。ただ、僕が飛び降りたのは4階だった。虚しい。

見通しはあまりよくなかった。僕はもう走れないので、すぐ真下に落ちるしかない。恋人にもらった腕時計を見た。3時だった。通りがかる人はいない。大丈夫、大丈夫。僕はもう大丈夫なのだ。

電話が鳴った。同居人からだった。

「どうしたの?どこにいるの?」

「ちょっと散歩してるよ。すぐ帰るね。心配かけてごめんね」

切ったあと、すぐさままた電話が鳴った。同居人から?ちがった。Twitterのフォロワーからだった。

「Aくんじゃん。こんな時間にどうしたの?眠れない?」

「あのさ、まぐは、自殺するときどんな気持ちだった?怖かった?何か(薬やお酒)飲んだ?」

怖くなかった。これで終わりにできると思うと気分が高揚した。まったくのシラフで、いくぞ!と楽しみにして飛び降りた。そう伝えたら、そっか、とだけ返事があり、じゃあまたねと電話を切った。あれから一度も彼と話していない。

このまちには背伸びするより高いビルがたくさんある。背伸びができない僕にぴったりだ。死のうと思えば死ねるはず。今度こそ死んでやる。すべておわりにできる。同居人に散々な迷惑をかけて、ぼくは死ぬ。

あるバンドの曲を真似て、コンビニでジンジャーエールを買った。ひとくち飲んで、アパートに帰った。

死ねるのだ。あのまちに行けば。背伸びするより高いビルがある。

死ねる。